第1节 アイデンティティ理论.doc

第１章　アイデンティティと状況 第１節　アイデンティティ理論 　友人関係において、アイデンティティの形成はどのような関与があるのか。私たちは、現代の友人関係では、周囲の状況によりアイデンティティ形成に差異が出るのではないか、という仮説を立てた。 　アイデンティティの形成については、どのようになされるのか、長い年月の中で研究されてきた。そこで今回は、代表的なアイデンティティ形成の形態を探るとともに、社会的アイデンティティと個人アイデンティティの関係について考察していく。 （１）個人的アイデンティティ 　アイデンティティには、社会的に構成されるものと個人的に構成されるものがある。まずは、個人的アイデンティティについて論述していく。 　アイデンティティとは、主観的な自己に対しての「自由記述」と自己評価によって成立している。 　そのような観点からみると、個人的アイデンティティとは、「特定の他者個人との完成に帰せられる個人的な自由記述であり、個人的に親密で永続的な人間関係と結びついていた独自な自己記述である」と定義される。 　つまり私たちは、自己について何かを意識する主体的な思考をもつものであると考えられているのだ。その考えの背景には、「私は、一つの身体の内部に閉ざされた個的な存在である」という感覚が存在すると思われる。 　「私」は、「他者」から切り離して存在しており、その内部は外からは知る事ができない「内面」を持っているのだ。自己は、自らによってしか認識されることはなく、外部＝他者には内面を存在させることは不可能であることを示唆している。 　この個人的アイデンティティ概念を元に、自己と他者の関係について、以前から様々な人によって、研究がされてきた。そこで、次は代表的なものについて論述していく。 社会的自我論 　社会的自我は、G.H.ミードが自我論として提唱したものである。人間は、２つの自我の「主我」と「客我」を持っている。「客我」とはMe、他者の期待をそのまま内面化したものであり、「主我」とはI、客我に対して反応する自己のことをいう。このように、自我はこの２つが相互に関係して、成立しているのである。 　つまり、客我は一般化された他者＝一般社会からの期待を読み取ることで、自らを構築、認識し自我を形成する。また主我は、その取り入れられた自我を通じて、一般化された他者を自己に内面化すると共に、そこから主体性を持って自己を生み出すのだ。ゆえに、主我と客我は完全なイコールにはなり得ないが、相互に関連していることは、確かである。 役割形成 　役割形成は、G.H.ミードが行為論として提唱したものである。「準拠点とみなされる行為者、つまり自我の行動に関するいくつかの期待があり、それはある程度まで自我の行動のための基準となっている」というのが、自我の役割期待の定義である。 　初めは、家族や友人のような「意味のある他者」によってその役割期待がされることで、役割取得をし期待を自我に内面化する。そして、世間やコミュニティ全体のような「一般化された他者」による役割取得へと拡大していく。 鏡に映った自我 　鏡に映った自我は、C.H.クーリーが提唱したものである。鏡に映った自我とは、「人間は自分の顔や姿を自分では分からないが、鏡に映すことによってわかるようになる。それと同じように、人間の自我は鏡としての他者を通じて知ることができる」。つまり、他者が自分をどのように認識し評価したかによって、自分を知ることができるのだ。他者が鏡で、その鏡に映った自分が鏡に映った自我なのである。 　以上の個人的アイデンティティ形成のように、自己と他者の関係の中で自我形成が行われ、相互関係によって成立していることが分かる。他者から内面化を受けているが、他者がこう望むだろうという自分の想定によって行為が決定されているのが特徴である。 （２）社会的アイデンティティ 　一方、社会的アイデンティティの定義は、「ある個人の感情的および価値的な意味付けを伴う自分がある社会手段に所属しているという認識」である。個人や社会が持つ前提や仮定に基づいている。その仮定は、「社会が相互に関係のある勢力と地位を意味する様々な社会的カテゴリーから成り立っている」というものである。 　つまり社会的カテゴリーは、人々を様々な変数（国家?民族?階級?職業?性?宗教）で区別し、カテゴリー化していくことで、そのカテゴリーによって勢力?地位?威信などを含む属性が違うのだ。ゆえに、社会的カテゴリーは一つとは限らず、複数のカテゴリーに属することで、多様なアイデンティティ領域を持つことになる。また、黒人であるという社会的カテゴリーは、黒人と黒人以外という対照となるものがなければ成立しない。 　個人は同時に